【出張レポ】シャンパーニュ編#1

今回からシャンパーニュ地方の出張レポートをお届けします。
まずはブドウ畑の立地やシャンパーニュの格付けについてご紹介します。
次に1軒目に訪問したシャンパーニュメゾン「ルイ・ド・サシー」についてレポートします。

シャンパーニュのブドウ畑と格付け

モンターニュ・ド・ランスのブドウ畑

ランス郊外のシャンパーニュ=アルデンヌTGV駅は、モンターニュ・ド・ランスのブドウ畑のすぐ北に位置しています。

駅周辺は、平地のため、どちらかというと、穀物栽培や飼料栽培がおこなわれていますが、すぐ南にあるモンターニュ・ド・ランス(ランス山地)が近づけば、まもなくブドウ畑が見えてきます。

モンターニュ・ド・ランスのブドウ畑は、ランス山地の北側斜面を「つ」の字を描くように広がっています。

西部はプルミエクリュの村を中心に、偉大なグランクリュの村は東部の丘陵部から平野にかけて広がっています。

シャンパーニュの格付け

村(クリュ)単位で格付け

シャンパーニュにおいて、グランクリュやプルミエクリュという概念自体が、ブルゴーニュやボルドーと異なっています。

ボルドーのプルミエ・クリュ(クラッセ)はシャトーごとの格付け、ブルゴーニュは、畑一枚一枚が村名格、プルミエ・クリュ(一級畑)、グランクリュ(特級畑)と規定をされているのに対し、シャンパーニュでは村(クリュ)単位で格付けされており、グランクリュの村、プルミエクリュの村、それ以外の村、と規定されています。

面積が広いグランクリュ

シャンパーニュでは村という広い範囲で格付けしているため、シャンパーニュのグラン・クリュやプルミエ・クリュは数百ヘクタールにわたる広域を指します。

村より小さい区画の畑単位まで格付けされているブルゴーニュでは、特に大きなクロ・ド・ヴージョでさえ50ヘクタール、ロマネ=コンティ等の小さなものでは2ヘクタールに満たないことを考えれば、これがいかに広いかがわかります。

シャンパーニュの単一畑

シャンパーニュでは村(クリュ)単位で格付けをしていますが、村より小さい単位である区画(畑)について、優れた区画でつくるワインには、その具体的な区画の名称をつけている場合があります。

例)トップキュヴェの区画名がつけられたワイン

  • クリュッグのクロ・デュ・メニル(ル・メニル・スュル・オジェ村)
    単一の畑で採れたシャルドネのみ使用
  • ビルカール=サルモンのクロ・サン・ティレール(マルイユ・スュル・アイ村)
    単一畑で採れたピノ・ノワールのみ使用
  • ジャック・セロスのリュ―・ディ(小区画)シリーズのブー・デュ・クロ(アンボネ村)やキャレル(ル・メニル・スュル・オジェ村)
  • スー・ル・モン(マルイユ・スュル・アイ村)

こうしたそ区画ごとに名称をつけ、その違いが分かるように表現したキュヴェは人気があります。

メゾン訪問

シャンパーニュではワイン生産者を「メゾン」と呼びます。

今回はいくつかメゾンを訪問し、ワイナリー見学や試飲をさせていただいたので、その記録をレポートします。

ルイ・ド・サシー

日本でもすでに知られたグラン・クリュの共同組合でもあるマイィ・グラン・クリュの醸造所を横目に、続くヴェズルネの村を抜ければ、本日最初の訪問予定のメゾンである、ルイ・ド・サシーのあるヴェルジーの村が見えてきます。

ドメーヌにつくと、ヤエル・サシー女史がわたしを出迎えてくださいました。

ルイ・ド・サシーの歴史

ルイ・ド・サシーは、1633年以来、13世代にもわたってワイン用ブドウの栽培を続けてきた家系で、1962年から「サシー・ペール・エ・フィス」の名前で、シャンパーニュ製造を始めました。

後に、メゾン名を「ルイ・ド・サシー」に変え、現在はお孫さんの世代が切り盛りしています。

栽培環境

所有畑の面積は18ha。グランドメゾンと比べると小さいですが、個人生産者としては比較的大きな畑を持っています。

ドメーヌの所在地でもあるヴェルズィ村のグラン・クリュのほかに、ランスの東西にそれぞれ畑を所有している他、遠く離れたバール地区のオーブ村にも畑を持っています。

ただ、100km以上も離れたオーブまで畑仕事をしに行くというのは現実的ではなく、こちらの畑については委託栽培をしています。

醸造所

ドメーヌの一階は、収穫果を受け入れるスペースで、普段は倉庫として使われているようです。
この端に圧搾機があり、圧搾荷重はそのまま地下の醸造所へと送られます。

送られた果汁は、もともと発酵タンクで発酵を行っていましたが、2022年より、樽発行・樽熟成に挑戦し始めたとのことで、いい結果が出るのを楽しみに待っているのだといいます。

樽熟成のスペースを抜けると、動瓶機や瓶熟成中のワインがおかれた熟成庫が見えてきます。

マグナムボトルについては、今なお動瓶機を使わず、手作業でのルミュアージュを行っているようで、ピュピトルと呼ばれるルミュアージュを効率的に行う器具にはマグナムボトルが刺さっています。

決して大きくはないですが、地下深くに広がった醸造所というのは、シャンパーニュで典型的にも思えます。

醸造所の見学が終わり、畑の話を伺うと、所有するヴェルズィ村の中には17の小区画に5ヘクタールほどの畑を持っており、大半はピノ・ノワールですが、一部にシャルドネが植わっているといいます。

お隣のヴィレ―ル=マルムリーは石灰質の土壌が広がり、シャルドネの栽培が主である一方、ヴェルズィの畑は粘土質で、ピノ・ノワールやムニエの栽培に向いているためです。

ドメーヌの畑について続いて聞いていると、驚くことに、シャルドネを植えていた一部の区画について昨年、希少品種のプティ・メリエに植え替えたとの話です。

ブドウ品種

シャンパーニュに使用するブドウの品種はシャルドネ、ピノ・ノワール、ムニエの3種類が基本形として知られていますが、実は他にも許可品種は7種類あります。基本の三種に加え、ピノ・ブラン、ピノ・グリ、プティ・メリエ、アルバンヌで7種類です。

こうした希少品種は、シャンパーニュのブドウ畑全体の34,200haのうちたった110haで、栽培比率の1%しかありません。この110haの内、80haがピノ・ブラン、残った30haをピノ・グリ、プティ・メリエ、アルバンヌの三品種が分け合っています。

こうした土着品種は、栽培が難しく、収量が低いため、育てやすく収量に優れたほかの品種にとってかわられていました。

ヤエル女史によれば、酷暑が続く昨今において、乾燥に対する強い抵抗性と、高い酸度があるというのがこのプティ・メリエの特徴で、変動する気候環境を考えればその特長がワイン造りに生きてくるのだといいます。現状はアルバンヌや他品種にまで手を出すつもりはないといいますが、興味深い試みです。

近年はこうしたヤエル女史のように、伝統的な土着品種に対する再評価が行われています。

ミネラル味を大事にするルイ・ド・サシー

ミネラル味というのを大事にしたいというのがルイ・ド・サシーで、ワインの後味の、決して重たくはない深みとして貢献してくれています。

ワイン造りについては、全体としてミネラル味を大事にしたいというのがドメーヌの哲学とのことで、ワインを味わうと、確かに、力強い酸とキレイな果実味の背後に、心なしかミネラル味が感じられます。

ミネラルとは

ミネラリーなスタイル

「ミネラリーなスタイル」という表現です。これは、ワインがやせてキレイな酸があり、フランス・ブルゴーニュ、ピュリニィ・モンラッシェのワインのようにキリっとしたスタイルの場合によく使われる、スタイルについての表現です。

ミネラル香

次に、「ミネラル香」という表現をされる場合があります。ミネラルというと鉱物ですから、鉱石が香るというのは何とも不思議なものですが、「火打石を打った時のような香り」として使われています。ヨード香もミネラル香に含められる場合もありますが、こうした果実系・花・乳製品系・動物的な香りでは表現できない香り、または醸造場の欠陥でもない香りに使われています。時として、SO2の酸化防止剤を入れすぎた場合に、こうしたミネラルのような香りが出るといわれることもあります。

ミネラル味

そして最後に「ミネラル味」と呼ばれる文脈です。塩味と呼ばれることもありますが、ナトリウム塩ではなく、そのほかの希薄な無機塩のような味わいを指すのに使われます。

コントレックスという超硬水(フランスにはエパールHeparというさらにマグネシウム分の強い超硬水もあるので機会があれば、ぜひ試してみてください。)この塩味というものの何たるかが一口でイメージできます)を飲んだ時に、舌の両脇にじわっと広がるまろやかさがミネラル味です。

コトー・シャンプノワの赤ワイン

ワインのラインナップにおいてはも、2022年からコトー・シャンプノワ(※)の赤を作りはじめるなど、気候変動に伴う品質の変化に敏感なようです。

※「コトー・シャンプノワ」とは、シャンパーニュ地方でつくられるスティルワインのこと。シャンパーニュの黒ブドウからつくる赤ワインや白ブドウからつくる白ワイン、ロゼワインまであります。

フランスの栽培地としては最北で、日照に恵まれないことから、色づきのトラブルがあることも少なくないシャンパーニュですが、うまく作れば、スミレのフローラルな香りが優しく広がる個性的な赤ワインができることは長い間知られていました。しかしながら、温暖化の影響を受け、シャンパーニュでも十分な色づきと果実の成熟がもたらされるようになりつつあり、コトー・シャンプノワの品質はますます向上しています。向上は目が離せません。

難点があるとすれば、同じ果汁から、等量のシャンパーニュを生産するポテンシャルがありますので、少なくともシャンパーニュと同じ高価な価格がついてしまう点でしょうか。この点については、やや割高感があっても満足してもらえるだけの特有の個性があり品質の高さでアピールするほかありません。

樽発酵を新たに取り入れ、プティ・メリエの導入し、コトーシャンプノワの生産を始めるなど、新しい試みについてかなり積極的な印象をうけました。

今回の試飲ではまだこうした試みのもとに作られたワインはまだ完成していませんでしたが、こうした実験的導入がうまくいけば、5-10年後に更なる品質向上が見られることが今から楽しみでなりません。

次回、出張レポート「シャンパーニュ編#2」へ続く